評価ができない日本企業
名ばかりですが、労働基準法でいうところの管理監督者になってから、査定会議というものに呼ばれるようになりました。
そこで見た異様な光景から、日本企業の問題点について考えていきます。
その会議は、ボーナスに関わる点数をつけたり昇級させるかを決めたりするもののようです。
「ようです」というのは、その会議で何を決めるかを伝えられたことがなく、いきなり参加させられて傍観しているだけだからです。
それはともかく、会議にはじめて参加したときにはギョッとしました。
その会議では、100名近くの査定を2時間で決めていました。
ほとんど上司の独断です。
時間がないからバッサバッサ決めていったのかバッサバッサ決めていったから時間が短くなっていったのかは分かりません。
いずれにせよ、人の評価をこんなに簡単に決めているのかというのがひとつ目の驚きでした。
ふたつ目の驚きは、評価のあいまいさです。
1番上の上司がよく知っている人はその上司が、よく知らない人は直属の上司が、それぞれ点数を宣言します。
その点数をつけた理由は多くの場合明かされません。
明かされる場合も、以下のような感じです。
「あの人は休みが多かったからマイナスしよう」
「彼は今年〇〇賞を取ったからもっと点をあげよう」
「事故を起こしたからマイナス」
「よくがんばっているから加点」
ちょっと何言っているのか分からないと思いました。
ただ、さらに驚きだったのが、出席していた多くの人たちは、その点数づけに納得していたように思えたことです。
自分がおかしいのか?と思い、結局何も発言できずに会議は終了しました。
良くも悪くも私にはマネできません。
査定の内容は公平か?少なくとも公平を目指しているか?査定結果を部下に説明できるか?など、考えだしたらキリがありません。
会議での違和感は強く感じましたが、自分の感覚がおかしいのか、組織の感覚がおかしいのか、しばらく悩んでしまいました。
考えた結論は、古い組織であればこれで問題ないのでは、ということでした。
少なくともバブルくらいまでは、このやり方で問題なく回っていたのでしょう。
古い組織の中に、私のような感覚の人間が混ざってしまったので問題と感じているだけなのかな、と。
そのお話しをする前に、日本の雇用形態について整理しておきます。
欧米はジョブ型雇用で日本はメンバーシップ型雇用と言われます。
ジョブ型雇用の場合、先に職務(ジョブ)があり、それに対して必要な能力がある人材を当てはめます。
極端にいえば人を見ずにスキルを見る感じでしょうか。
その人材は、基本そのジョブしかやりません。
担当者の職務範囲は信じられないほど細かく決められており、その担当者は基本的に自分の職務範囲を超えた仕事はやりません。
職務範囲を超えた仕事を依頼されたら給料アップのチャンスですね。
一方でメンバーシップ型雇用は、まずは必要な従業員数を雇用し、その人たちを人手が足りない部門に配属させていきます。
人柄やポテンシャルをみて採用して、適材適所の配属をして育てていくスタイルです。
きっちりとした職務分担がないことも多く、個人の能力や経験年数などで仕事の範囲は変化します。
仕事の範囲が広がっても給料に反映されることは少ないです。
どちらが優れているとかではなく、国や会社との相性のようなものだと思っています。
そしてそれぞれメリットデメリットがあり、デメリットがなるべく出ないように時代に合わせて少しずつスタイルを変えていく必要があると思います。
ジョブ型雇用のメリットは、なんといっても業務内容と担当者のスキルのマッチングです。
企業は採用の時から必要なスキルをはっきりと打ち出すので、それに見合った人材が集まりやすいです。
入ってきた人材は、基本的に即戦力として扱われます。
デメリットは、たとえばスキルが身についていない新卒時代はたとえ有名大学卒でもなかなか働き口が見つからないとかもありますが、特に日本での1番大きな問題は、異動をさせにくいことでしょう。
これが日本企業では致命的な問題になります。
採用の時から職種を固定しているので、その部門で人が余っているとか、他の部門で人が足りないとかの事態でも、その人を異動させることは難しくなります。
そういう場合、アメリカとかなら、いらない人をクビにすればいいのですが、日本は法律で正社員がガッチガチに守られているので、いらないからクビとかは不可能に近いです。
雇用契約によっては契約解除も可能ですが、フリーランスや派遣契約など限られます。
なので、誰かが辞めたとかで人手が足りなくなった時にでも、社内の人材を融通して乗り越えられるメンバーシップ型雇用は、日本企業に合っているといえます。
メンバーシップ型雇用の問題点は、教育と評価の難しさでしょう。
採用時には基本的にスキル不問(主に人柄やポテンシャルを評価)、社内で育成するスタイルのメンバーシップ型雇用は、逆に言えば採用後に育成しなければいけません。
その割に、育成は基本的に各現場に任されていて、研修制度を除いたら一貫した教育制度がある会社は少ないのではと思います。
現場も現場で目の前の仕事に手一杯で、自主的に教育を買って出る変わり者はほとんど現れません。
その結果、右も左もわからない状況で現場に放り込まれ、揉まれて成長するという状況が生まれます。
自分が現場で揉まれて成長した人間は、部下にも同じ教え方しかできません。
私も本気で教育を考え出してから、その難易度の高さを思い知らされています。
まずは、欧米でいうジョブディスクリプション(職務内容)を作る必要があります。
一般職ならまだいいですが、総合職になると業務範囲が広くてあいまいなので、それを洗い出して整理するところからはじまります。
特に技術系ならそこに専門知識が加わります。
本を読んで学べる内容ならいいですが、会社特有の仕組みであれば個別のマニュアルが必要になります。
そんなものも無いのか、とあきれた方もいるかもしれませんが、特に古い企業や比較的規模の小さい企業の総合職は何でも屋なので、マニュアルが無いことは多いんじゃないかと思います。
ここまで教育の難しさについて語ってきましたが、これが評価の難しさにも直結しています。
職務がはっきりしていないということは、担当業務の出来栄えで評価をすることが難しいということです。
事実、我が社の総合職の査定は、リーダーシップがあるかとかグローバルな人材かなど、抽象的なものばかりです。
全然違う業務内容で公平に査定しようとした結果、そういう評価項目になったのでしょう。
ただ、肝心の実務について評価ができていません。
実務の評価ができない前提で評価項目が決まっているように思えます。
最初の違和感に戻りますと、少なくとも私のいる組織では、実務はやって当たり前、そのうえでどんな+αを出せるかを見ているように思えます。
実務のできばえについても評価があることがありますが、「〇年目にしてはイマイチ」のように、かなり感覚的です。
結局、そういう組織では上司の独断と偏見で評価が決まらざるを得ません。
上司に部下の生殺与奪権を与えると公言している会社ならまだしも、私ならたとえ良い評価であったとしても、そんな査定をされたいとは思いません。
こういう昔ながらの教育・評価制度も、部下がおとなしく従っているうちは、オペレーションが楽ですし、なくならない気もしています。
会社の規模にもよりますが、全社的な仕組みにしようとしたらとにかく大変です。
けれども、いったん仕組みを作ってしまえば、業務効率が上がったり、担当者が成長を感じやすくなったりと、いいことは多いと思います。
というわけで、日本的な組織の問題点についてでした。
欧米的なジョブ型雇用を日本が採用すること自体は、日本の雇用形態的に詰んでいるので良いとは思えません。
ただ、企業の規模が大きくなればなるほど業務の専門化が進みますので、あいまいな役割分担ではひずみがどんどん大きくなります。
私が見たのは、そういうひずみなのかもしれません。
ここから改革を進めるのか、元に戻るのか、どちらが日本企業に合っているんでしょうかね。